mirage of story
「.....もう一度聞く。
一体何が起こった?」
再びロアルの低い問い掛けが空間に谺する。
「申し上げ....ますッ!
城より北北西....国境の駐屯地にて―――何者かの襲撃により....壊滅。
死者多数。生き残ったのは....私一人だけ」
途切れ途切れに、言葉を紡ぎ出す兵。
伝えねばならないことを、必死に確実に伝えるべく、憔悴した身体から力を振り絞る。
「.....襲撃者は不明。
手掛かりは.....これが―――放たれた.....矢の先に。
これは我等に対する.....宣戦布告かと思われます―――ッ」
力を振り絞りそこまで言い切ると、その兵士は徐に懐から何かを取り出す。
その手に握られた何か。
それは.....一枚の薄汚れた紙切れだった。
その紙切れは、所々に紅い染みに汚れていて、その中央には何やら紋章のようなものが描かれている。
その紙切れをライルは受け取り、ロアルの元へと持っていく。
「ロアル様....これを」
その差し出された紙切れを、ロアルは無言で受け取り皴を広げて描かれた何かを見つめた。
「―――――ッ」
その瞬間、ロアルの感情のない顔に明らかな変化が現れた。
目を見開き、漆黒の眼で紙切れを見つめるその顔は.....明らかなる動揺に苛まれていた。