mirage of story
〜5〜






「―――――。我が主。
我等の意の証を持った者が、奴の....ロアルの元へと辿り着いたようです」



「......あぁ、そのようじゃな」





ッ。
傷付いた兵が宣戦布告を示す紋様の描かれた紙切れを懐から取出し、蒼みがかった黒い髪の若い男に手渡した。

そしてその若い男の手から今度は漆黒の長い髪と闇色の瞳を備え持つ陰険な男の元へと渡る。


―――。
その男は死んだような闇色の瞳で紙切れを見つめて忌々しげに顔を歪める。
それから憤りの意を浮かべて吐き捨てるように若い男に何かを言う。










そんな魔族達の様子。
それを遥か遠くから―――魔族の国の国境を越えてそれよりまたずっと先から眺める者達が居た。


そこはかつて栄えていた人間達の小さなの国の、今は崩れ去りボロボロで繁栄の跡など見る影も無くなってしまった城。
廃墟と化し寒々しく寂しい場所。

人の気配など無いはずのこの場所で、夜の闇に紛れて蠢く人影。
静まり返る静寂な空間に人の声が響く。













「これで手筈は整った。
この廃れ切った世界を我等の手で立て直すための......我等の目的を果たすための架け橋が架けられた。
手遅れになるその前に、我等がこの世界に鉄槌を下す。

.......。もはや後戻りは出来ぬ。
覚悟はよいか、ロキ」



「私は何処までも貴方について行くつもりです――――ジス」




その者達。
ロキと呼ばれた銀に近い灰色の髪に何処までも深い闇にも見える紫色の瞳を持つ青年と、ジスと呼ばれた白髪で顎に立派な髭を蓄え歳を感じさせない凛々しさを持つ老人。

嗄れているが凛々しい声。
無機質で淡々とした声。
二人の声が廃墟と化した城の中に響き漂う。



二人の前には水の張られた大きな水瓶のようなもの。
その鏡のような水面に遥か遠くの宣戦布告に揺れる魔族の大国の様子が映し出されていた。

二人は静かにそれを見下ろしていた。







 
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