mirage of story
彼等が居るのは、廃墟と化した亡国の城の中にある何か儀式を行うような礼拝堂。
真ん中には綺麗で清らかな水を湛えた水瓶。
地下から汲み上げられた水は一滴の曇りもなく鮮明に彼等が見たいものを映し出していた。
城は廃れ壊れてもこの場所だけはまだ生きている、そう感じられた。
トンッ。
そんな生の溢れる場所で水面に映るそんな様子を刺すような視線で眺める。
そしてジスは手に握り締めていた杖を、映し出す水面の横に一回地面に落とすように突いた。
ッ。
すると水面が一瞬グラリと揺れて、ただの静寂な水面へと戻る。
何かの術か。
そんな光景をロキは驚く訳でもなくただ見つめる。
代わりに崩れかけた城の壁の隙間から覗く月が煌めく水面に映し出され静かな水面を彩った。
どうやら外は美しい月夜のようだった。
「―――――。
これからが始まりだ。
この荒み切った世界を終わらせる革変の。この捻り曲げられた世界の運命を正しいものに戻す為の戦いの。
ロキ。
我等、身を粉にしてでもこの世界のため戦い抜くぞ」
「貴方の意のままに」
そう強い意志の籠もった歳を感じさせない抑揚のある声で言うと、おもむろに手を夜の空に輝く月に向かって翳すジス。
ッ。
そしてロキはその翳された手を見上げる。
月に翳された手。
月の淡い光が老いたジルの血潮を照らし出す。
そしてその手の甲には黒く肌に刻まれたあるものがあった。
流れる血潮の上に刻まれたその何か。
それは、紋様。
そう。
ジルの老いたその手に刻まれていたのは、魔族の王ロアルに宣戦布告の意を知らせたあの小さな紙切れに描かれていたあの紋様と同じものだった。