mirage of story






それとも相手が仕掛けてくる前に、仕掛ける。


後者を良策と考えたカイムはその旨をシエラへと伝える。
シエラはその策に、コクリとまた小さく頷いた。






カツッカツッカツッ。

煉瓦の街道を、そのままの一定のリズムのまま靴音を刻む。



先程、暮れかけてきたとシエラが思った空はもう夕陽の茜色が闇に溶け始めていた。
茜と闇のコントラストに、薄くなった二人の影が伸びる。







カツッカツッ。


刻む靴音。
目標の街灯が近付く。

距離はあと、十メートル。




カツッカツッカツッ。


あと五メートル。
あと、四メートル。三メートル。




ッ。

変わらぬ歩幅で歩く二人が、ついに街灯に差し掛かるかどうか。
ちょうどその時、暮れかけた空を背景に街灯にボッと灯りが灯った。





(今だっ!)



その瞬間、二人はバッと同時に走り始めた。

ゆっくりと歩いて、長く煉瓦の道に伸びる影を残像に残し、二人は路地へと走り込む。
そして路地へと身を潜めた二人は翻り、壁に背中を張り付けて自分達を追い掛けて来るはずの人影を待った。



剣を構えようと腰に手を掛けるが、図書館の部屋に置いてきてしまったことを思い出した。

だから仕方なく、二人は護身用にと携帯していた小さなナイフを持ち構えた。










――――ダッ。


数秒後。
案の定、路地の入り口に駆け込む一つの人影。





 
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