mirage of story
掛かった。
相手もそのことに気が付き、しまったという表情をするがもう遅い。
もうその人影は、カイムとシエラが捕らえることが出来る範疇。
相手もそれが分かっているのか、逃げようとはせず動きを止めた。
「.........俺達に、何の用ですか?」
カイムが静かな口調で、その人影に問う。
答えを待ちながら、カイムの紅い瞳が人影を把握しようと凝視する。
相手はやはり一人。
やや長身で身体は黒いマントですっぽり覆われている。
顔はフードに隠れていてよくは見えないが、銀色の髪の端が覗き鋭い紫の眼光がこちらを見据える。
「........」
静かに問い掛けるカイムに対し、マントの人影は沈黙を守ったまま。
動く気配すらない。
「答えて下さい。
......貴方は、何者ですか?」
答えない相手に、尚も静かな口調を崩さずにカイムは問う。
シエラはそんなカイムから一歩だけ後ろへと下がったところで、相手に視線を送る。
二対一。
三つの視線が薄暗くなってきた空の元に重なり、煌めく。
途切れない緊張感が、場を支配して離さない。
「...............私は在る方からの命により、使者として貴方がたを我等の元へと引き入れるべく参上した。
故に貴方がたの動向を見張らせて頂いた次第。
無礼を働いたようであれば、申し訳なかった」