mirage of story
"私は悩んだ。
娘が幸せな人生を送れるには、どうすればよいのかを。
だが結局、その答えは見つからなかった。
私には、どうすることも出来ないということか。
娘の未来が明るいものであることを、ただ願うしか出来ないというのか"
黄ばんだ紙面に滲む涙の跡。
その涙の跡が意味は数行前の娘の誕生を喜ぶ父の涙から、いつの間にか娘の運命を哀れむ涙へと変わっていた。
涙の跡が滲むページの最後の行。
そこには、これから先に訪れるはずの娘の運命に為す術がない己に対しての、そんな悔恨の言葉が綴られていた。
"願うことしか出来ない。
.......ならば私は、この身の全てを懸けて願おうと誓った。
この私の全身全霊を懸けて、娘の幸せを。
その願いを込めて私は娘に「ルシアス」と名を付けた。
ルシアス。
古い魔族の言葉で「神の子」という意味の言葉。
娘にどうか神のご加護があるように。そんな願いを名に籠めた"
悔恨の言葉。
それが書かれたページを捲ったその裏に、今のこの時代誰もが知っているはずの一人の者の名が初めてこの書に綴られた。
ルシアス。
それは今から五年前に勃発し激しさを増した戦乱の最中に行方知れずとなり、亡くなったとされた少女の名。
王位を継承することなく、人間の手で命を奪われた姫の名。