mirage of story
王である彼が此処で綴る"彼"。
それは王族でもない、ただの庶民の少年。
代々魔族の王家に仕える家系で、歳はルシアスと同じ。
父親に付き添って幼い頃ら城へとやってきていた彼は、ルシアスの初めての友達であり幼なじみであった。
王族でない者が、指輪を継ぐ。
それは代々先祖が守ってきた掟を破るということになる。
故にこの決断は、ルシアスの父としても苦渋の決断であった。
しかも相手は年端も行かぬ少年で、且つその少年には魔族としての致命的な欠落点があった。
"彼は生まれた時から、魔力が無いと言われていた。
民達は彼のことを「出来損ない」だと言い、彼を蔑んでいた。
魔力など人の素質のほんの一部としか考えない私は、彼が魔力を持たないということ聞いても、民達のようには考えないが。
だが指輪の力を行使するためには、魔力というものが必要不可欠。
そんな彼が契約者になり得ることが、果たして出来るというのか。
そう炎竜に尋ねたが、炎竜はただ静かに私を見るだけだった"
"........炎竜には分かっていたのかもしれない。
彼には魔力が無い訳ではない。
彼が魔力を発揮出来ないでいるのは、魔力を発動するきっかけが無く彼の魔力に歯止めが掛かっているからであると。
普通、魔力というものは生まれ育っていく過程で自然と発揮されていくものだが、ごく稀に何かその者自身の魔力の源に大きく関わるきっかけが必要である場合があるという。
きっかけがあるまで、その者の魔力は何らかの力でその内に押さえ込まれているのだと。
私自身も、かつて魔力を持たず生まれた者が後に他の者を遥かに凌ぐ程の魔力を得たという話を聞いたことがある。
――――彼もそのような者の一人であると、炎竜は知っていたのかもしれない"