mirage of story







そこで紙面を走る黒い文字に、ピリオドが打たれていた。



それ以降、ページは白紙。
これから先の歴史が刻まれるはずの白紙のページが残るだけで、文字はない。






ルシアスの父である彼が、この書に綴ったのはここまでだった。


彼の死後、生死不明且つ行方不明のルシアスの代わりに王となったロアルは、この新世界白書に関心を抱かなかった。

なので彼以降、つまり現在王であるロアルによる記述はなく、彼の代でこの書を綴る伝統は途切れている。






彼の死後、早三年。

この三年で人間と魔族の間の戦火は激しくなり、時代は激動した。



その安定しない世界の情勢故、彼がこの書に記した記述は、未だ編纂がされておらず世界中に普及する複製本の中にはまだない。

ようやく最近になって、その作業が知識の集う街と言われるメリエルの中央図書館で始まろうとしているところだった。







新世界白書は、この世界にとって大事な歴史の遺産。

原本はメリエルの中央図書館の厳正な指導を受けた高位な司書官により管理されていて、編纂の折にその内容が添削し編集をされ複製本に書き加えられる。




あまりに私的な内容や、民の思想に大きく悪い影響を与えそうなものは複製本には載せられない。

だから世間一般の民が歴史として知るのは、原本の中のほんの一部。
編纂する司書官の意図も組み込まれているため、真の内容とは言えないのだ。







 
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