mirage of story
毛布の中を一瞬目が眩む程の光が支配して、それからやんわりと光が引いた。
引いて丁度よくなった光が、彼が視線落とすその本の表紙の文字を静かに浮かび上がらせる。
「........それにしても原本って奴はもっと大それたもんだと思っていたが、ただの古い本だな。これは。
ちょっと期待はずれだぜ」
ランプの光に浮かび上がるのは、濃く深い緑色の布地に金色の糸で丁寧に刺繍された"新世界白書"の文字。
緑のその布地にはその繊維の隙間に、この書の歴史を物語るように細かい埃が蓄えられている。
手でポンッと叩けば、きっとまだいくらでもその埃が舞い上がるはず。
だが毛布をすっぽり被ったこの状態でそんなことをすれば大変なことになるのは目に見えてるので、敢えてはやりはしないが。
まぁ、それほどまでにこの本がどれほどの歳月の中を存在してきたかが分かるだろう。
何しろジェイドが今手にしているこの本は、幾千年も前から存在し歴史をこの世界に語り継いできた大事な遺産であり、世界で一つしか存在しない"新世界白書"その原本であるのだから。
「............セシルの奴には、悪いことさせちまったな」
古びた本。
世界に存在する唯一の、人の遺した歴史的な遺産。
その表紙の小さな金色の文字を見つめ、ジェイドは自分の体温でだいぶ温かくなってきた毛布の中で、そうボソリと呟いた。