mirage of story
だから無闇に消費してはいけないのだけれど、やはり喉の乾きには勝てなくてシエラは受け取ったその水を何口か口に含んだ。
冷たいとは言えないぬるい水の感覚がシエラの喉を潤す。
「カイム」
ピチャッ。
喉を潤し、水の入ったその袋をカイムへと渡そうと差し出すとその反動で水の揺れる音がした。
その音から察するに、中にある水の残量はそう多くはないように思えた。
「ありがとう、シエラ」
カイムはシエラからそれを受け取ると、彼も喉を潤すべく水に口を付ける。
ゴクリッ。
水が喉を通る音がした。
その音が二三度続き、その度に水の入った袋は縮む。
そして、ついには袋の左右....表と裏がピタリとくっついた。それは水が無くなったことを意味していた。
「........すみません、水がもう無いみたいです」
水が無くなった事実にカイムはハッとして言葉を漏らした。
「無くなっちまったか。
仕方ねぇか、もう残り少なかったしなぁ」
カイムの言葉に、ジェイドは焦った様子もなくいつも通りの口調で答える。
「でも困ったねぇ.....パッと見たところ水がありそうな所もねぇし。
なぁ、ロキちゃーん。
あとどのくらいで目的地に着くかそろそろ教えてくれてもいいんじゃねぇのかい?せめてあとどのくらいで給水できる場所があるかくらいは。
ロキちゃんしかここら辺のこと知らないんだよなぁ。
誰かさんがまだ俺達を信用してねぇのかは知らないが此処が何処だか教えてくれないおかげで、困ったことに俺たちは自分達が何処に居るかすら定かじゃないわけよ」
困った、という割には危機感が全く感じられないジェイド。
空になった水の入っていた袋をカイムから受け取って、それをブラブラと振り回しながら一人傍らに立ったままのロキへと言葉を向ける。
軽い口調、だがそこには確実にロキに対する嫌味混じりの不満が込められている。
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