mirage of story












赤子はその人の腕の中に居た。
赤子はその人に大事そうに抱かれ、その中で泣いていた。



そしてその泣き声はその人がどうしても叶えたかった願いが叶えられた何よりの証明であり、また闇との契約を裏付ける何よりの証だった。















「これで........いいんだ」




その人はうなだれた大地の上、自分に言い聞かせた。




これから先訪れるのは、大きな自責と苦難。
そして世界を巻き込んだ混沌に満ちた未来。

そしてその禍の中心となる自分が世界を壊し人々を苦しめていく。
そうなれば、もう今まで生きてきた自分では居られない。




だからせめて、その時が来てしまうその時まで。
今この手に感じるこの温もりをしっかりと抱き締めていたいと、その人は思った。








空から降る雨。
濡れる背中は冷たい。

その中でその人は、世界と引き換えに取り戻した温もりを強く抱き締めて雨が上がり暖かな陽がその背を照らしてくれるまで、ただ泣いていた。










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