社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~

「名取さんですか……」

 業務ではまだそんなに関りがない営業マンの彼とは、できればこのまま関わらずにいきたいな……。そう思いながら歓迎会のときに赤ら顔でビールを注いでいた名取さんを思い浮かべていると、入口のドアが勢いよく開かれた。

「おはよーっす! お、モリモリに前原ちゃん! 調子どう!?」

「おはよう名取くん」

 森さんに続いて「おはようございます」と頭を下げながら、狙っていたかのような登場のタイミングに思わず笑ってしまう。

「名取くん、ちょうどよかった。ひとり暮らしについて前原ちゃんが聞きたいことがあるって」

「えーなになに?」

 森さんの言葉に名取さんは目をぱちくりとまたたく。いつでも元気なこの営業マンは、よく見ると瞳が大きくてかわいい顔をしている。尾を振って近づいてくる犬みたな彼に気後れしながら、私は曖昧に笑った。

< 107 / 383 >

この作品をシェア

pagetop