社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~

 配信当時からトレードマークになっていたボブヘアは、今はミルクティー色のナチュラルロングになっている。真っ赤に塗られた厚めの唇と垂れ気味の小鹿みたいな大きな瞳。はじめて間近に見る『有名人』をまじまじと見つめてしまった。

「はじめまして。スティリスの新井優志です」

 社長がよそ行きのスマートな微笑を浮かべて名刺を差し出した。イソラも名刺を差し出す。

「イソラです」

 社長から横目で睨まれ、私も慌ててカバンから名刺ケースを取り出した。

「アシスタントの前原と申します」

 いまだに手にしっくりきていない名刺を差し出して、反対にイソラの名刺を受け取った。画面の向こうの存在だった彼女が今目の前にいるということが、なかなか現実と合致しない。

「もしよかったら、先日いただいたメールの件でお話を窺いたいのですが」

 イソラの言葉に、社長は表情を崩す。

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