社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~

 ずっとソファにもたれていた体をわずかに起こし、彼は大きな手を私に伸ばす。長い指がそっと頬に触れて、どきりとした。

「今だって、欲求と必死に戦ってる」

「欲求……?」

 まっすぐ見つめられているからだろうか。胸がどくどく鳴ってせわしない。

 私たちをとりまく空気の色が急に変わったように思えて、体が張りつめる。

 頬に触れていた指先が、そろりと唇に移動した。胸の高鳴りを抑えるように、私は急いで口を開く。

「く、口紅……ありがとうございました。すみません、私メイクとかいつも適当で」

 緊張感に耐えられなくて早口で言っても、社長は「いや」と答えるだけで私から指を離さない。少しずつ縮まる距離に、私の心臓だけが狂ったように騒いでいるみたいだ。

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