社内溺甘コンプレックス ～俺様社長に拾われました～

「もう。往生際が悪いですよ～社長さん」

　イソラの穏やかな雰囲気が伝播するように、フロアに小さな笑いが生まれた。モニターに映ったコメント欄にも【社長さん！】【お願いしますよ～！】といったリアルタイムの声が大量に投稿されている。

　本気で購入を検討しているらしい視聴者から【社員さん着てみて！　雰囲気が知りたいから！】と熱のこもったコメントも寄せられていて、動画配信が盛り上がっている様子が伝わってきた。

　事態の渦中にいながら、私は不思議と落ち着いていた。はじめて目の当たりにするメディア展開の現場を、ここぞとばかりに観察する。

　リアルタイムの舞台裏まで素直に配信するなんて、スポンサーの意向を汲まなければならないテレビ番組では難しいに違いない。動画配信だからこそリアリティが生まれて、そのぶん誠実さが問われる。

　視聴者のコメントにフロア内の視線。一見穏やかな空気の中で、社長は意思決定を迫られていた。高まる空気の中、それはきっともう選択の余地がない。