社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~

「新井さん、お願いします。LANAのためにも!」

 松葉さんがダメ押しのように頭を下げて、社長は険しい顔のまま目をつぶった。それから小さくため息を吐く。

「……わかりました」

「やった! 社長さんのオッケーが出ました!」

 イソラが視聴者に笑顔で報告し、またコメント欄が盛り上がる。

「それじゃ前原さん、準備しましょ」

 イソラから受け取ったワンピースを抱えて、飯田さんが微笑んだ。

 一連の出来事を楽しそうに見ていたスタイリストの女性とも挨拶を交わして一緒に控室に向かいながら、私は胸の鼓動が高まっていくのを感じた。

 実は、ちょっとだけ楽しみになっていた。

 地味な自分を変える気はさらさらないけれど、プロの手を借りられるなら変身してみるのもいいかもしれない。

< 253 / 383 >

この作品をシェア

pagetop