社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~
今のやりとりなんて、門限を破った娘と父親みたいだ。
なんだかな、と思いながら顔を上げると、当の営業マンの複雑そうな表情が目に入った。
「あ、すみません名取さん、ええと……なんでしたっけ」
「いや……また今度で」
電車のアナウンスが流れたせいか、名取さんは小さく笑ってホームから見える景色に視線を移した。本来ならここからは立ち並ぶビル群が見えるはずだけれど、今はバケツをひっくり返したような雨で視界がけぶっている。
屋根から落ちる雨だれを見ながらため息をついている営業マンの彼も、雨の日は憂鬱なのだろうか。いつもの失礼なノリをひっこめた名取さんを不思議に思いながら、私は腕時計に目を落とした。