社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~
口にできないままでいると、かちんと物音がした。社長がスーツケースの取っ手を掴み、穏やかに微笑む。
「悪いが、しばらくここを頼む。戸締りはしっかりしろよ」
しばらくって、どれくらいですか?
訊けないまま、私は広い背中を玄関まで見送る。
つい昨夜、私は彼に好きだと伝えた。強要されたと思わなくもないけれど、でもそれは私の正直な気持ちだった。
社長の表情は嬉しそうに見えたし、なによりあんなふうにキスをされて、体に触れられて……。てっきり彼も私のことを想ってくれていたのだと思ったのに。
恋愛経験のない私が、勝手に勘違いしただけ?
遥か階下でスーツケースを引きずっていく背中を見送りながら、ため息をつく。
バルコニーには強い日差しが注いでいて、少し出ただけでも全身が焼かれそうだった。