社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~

 私が座ったせいで足元に転がり落ちたクッションを拾い上げ、ぎゅっと抱きしめる。

 恋だ。

 私は間違いなく、社長に恋をしている。

 人生で初めての恋を。

 人の見えない気持ちをあれこれと推し量って、ひとりで苦しくなる。

「恋って、こんなにつらいものなんだ……」

 もっときらきらと輝いて、楽しいばかりのものなのかと思っていた。

 目立つことを避け、他人から距離を取り、そうしているうちに日々の生活でいっぱいいっぱいになって、恋とは無縁のまま生活してきた。

 両親は物心ついた頃から仲が悪かったし、恋なんてしなくても結婚はできるものなのかな、なんて思っていた。

 クッションを抱いたまま、ソファにもたれる。まだ気配が残っている気がした。色気を漂わせた昨晩の彼を思い出して、胸が詰まる。
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