社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~

 飛びつくように手を取られて、気後れしながらも頷く。

「はい、新庄さんもお元気そうで……」

 ドアの前に彼女の荷物が見えた。さっき社長が持って行ったものと色違いの、メタリックレッドのスーツケース。

 どくんと心臓が音を立てる。

 私の手を取ったまま、彼女はきょろきょろと視線を巡らせた。

「でも、どうしてここに? 優志くんは?」

『新庄さんね、会社と社長を捨てて夢を取ったっていう話なんだよ』

『それで、社長がフラれたって』

 帰ってきた美しい人を眺めながら、いつか誰かが言っていた言葉が頭の中で再生された。

 小さな棘のように胸に刺さっていたそれは、杭の太さまで膨らんで、私の不安を押し広げていった。






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