社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~

 ため息をついていると、森さんがつぶやいた。

「そういえば前原ちゃん、引っ越したんだって?」

「ああ……はい」

「入社一年目の子だけの限定住宅手当だってね。どう? 憧れの都会暮らしは。すぐ出なきゃいけないってのも落ち着かなさそうだけど」

「……ものすごく快適です」

 もう一度フロアに目をやった。

 新庄さんを囲んだ輪の中に、社長の姿はない。取引先に行っている彼とは、土曜日の朝以来ろくにしゃべっていなかった。

「でもやっぱり、早めに出ないといけないですよね……」

 二日前、新庄さんと再会したときのことを思い出していると、玄関のドアが音を立てて当の社長が戻ってきた。

「おつかれさまです」

 スタンディングテーブルを通りかかった彼は、私を一瞥して「ああ」と短く答える。そのままフロアに向かう背中を見ながら、もやっとしたものが胸に広がった。

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