社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~

 なんだか、そっけない……?

 彼を見つけた新庄さんが「あ、優志くん!」と声を上げる。その呼び方に私の胸はますます陰った。

 新庄さんが社長を名前で呼ぶなんて、いまさらなのに。

「どうして部屋にいないのよ。びっくりしちゃったじゃない」

「知るか。いきなり来るからだろ」

 ふたりのやりとりに、社員たちがざわついている。「やっぱり」とか「ヨリを戻したのかな」とか、ささやき声が聞こえてくるようだ。

「おい、前原!」

「はいっ!」

 フロアを突っ切って届いた鋭い声に、反射的に返事をする。見ると、社長がファイルを掲げて私を見ていた。

「なにぼうっとしてる! 資料整理!」

「はいいい!」

 いつもの調子にどことなくほっとして、私は社長室に急いだ。



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