社内溺甘コンプレックス ~俺様社長に拾われました~
書き間違いがないか確かめるように、もう一度自分の字を目でなぞった。
前原結愛(まえはら ゆめ)、二十四歳。
長方形に切り取った証明写真には、生真面目な表情を浮かべた父親そっくりの自分の顔が写っている。
奥二重の目と、女にしては主張の強すぎる眉。丸い鼻先は美しさも面白味もなく、黒ぶちメガネのせいか全体的に陰気な感じがする。でも、変に目立つよりはずっといい。
履歴書には書く必要のない個性を極力隠すように、私はクリアファイルを胸に抱き、存在感を少しでも消そうと背をかがめる。
ふうっと長い息を吐いて気合を入れてから、三センチヒールのパンプスを狭い通路に踏み出した。
私は今日この場所で、なんとしてもまともな仕事にありつかないといけないのだ。