君が夢から覚めるまで
6.それぞれの痛み
念の為に病院へ行ったら、手首の捻挫だった。
家庭教師のバイトも、怜に怪我の事を勘付かれると困るので、体調不良を理由に休んだ。
怜からはおびただしいメールと電話が来ていたが、全て無視した。
何をどう説明していいのかわからなくなってた。
痛みは殆どなくなった頃、カフェのバイトには復活した。
だが、転んだ時の擦り傷がまだ痛々しかったので、ホールには出ず、手袋をして洗い物をしていた。
「香帆ちゃん、お客さん来てるよ」
カップを洗っていたら、店長の翔也(しょうや)が呼びに来た。
「私にですか?」
「うん、吉井香帆さんいますか?って。あ、17番の席ね」
誰だろう…わざわざバイト先に来るなんて。
大学の友達だろうか…。
手袋を外し、ホールへ出る。
17番の席に近付いて足が止まる。
…怜だ…。
「どうしてここ…」
「前に学校の近くのカフェでバイトしてるって言ってたから…。それより…その手の怪我、何?」
慌てて手を背中に隠す。
だが、もう遅い。
「何であの日、先に帰ったの?何でメールも電話も出ないの?体調不良って何?…桃華に会った?」
「…」
「…何で何も答えてくれないの?俺、香帆ちゃんに聞きたい事一杯あるのに…」
香帆は自分が何を守ろうとしてるのか分からなくなってきた。
「香帆ちゃん!」
「あと1時間」
「は?」
「あと1時間でバイト終わるから、それからでも良い?」
「俺の質問、全部答えてくれるっていうなら待つ」
「じゃあ…待ってて」
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