君が夢から覚めるまで
7.雪の音
香帆はとても小さく、儚く、脆かった。
きつく抱き締めたら壊れてしまうのではないかと思った。
思い出す事もない…なんて言っていながら、全然忘れてないと言われているようだった。
翌週から香帆は家庭教師に復帰した。
授業中はいつも通り普通だったが、駅まで送る時間はプライベートだ。
なんとなくギクシャクし出す。
「この間はごめんね。かっこ悪いとこ見せちゃって…」
「別に、かっこ悪いなんて思ってないよ」
むしろ可愛いぐらいに思ってしまった。
「怜君の…ゴチャゴチャ言うな!泣け‼︎って、アレ…」
「あ…つい酷い事言ってごめんね」
「ううん、かっこ良かった。なんか嬉しかったし」
ふふっと香帆は怜を見上げて笑った。
怜は自分の顔が赤くなってる事に気付いた。
だが、外は暗いから多分、香帆には分からないだろう…。
「ねぇ先生…」
「何?」
「カテキョのバイト…暫くサボったじゃん…」
「あ…うん…ごめんなさい…」
「お詫び、してよ」
「お詫び?うん、何をどうしたらいい?」
「クリスマス…空けといて。その日は何を置いても俺と会う。バイトも禁止。いいね!」
香帆が不思議そうに怜を見上げる。
「あ…雪…」
怜も空を見上げると真っ暗な空から白い綿がフワフワと舞ってるのが見えた。
「道理で寒いと思った…。うん、分かった。クリスマス空けとくね。風邪…引かないようにね…送ってくれてありがとう。おやすみなさい!」
改札に駆け込む香帆の背中を眺めながら、これ以上香帆が傷付かない為にはどうしたらいいか考えた。
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