君が夢から覚めるまで
怜は待ち合わせ場所に1時間も前から来ていた。
ひょっとしたら香帆は来ないんじゃないかと不安で仕方なかった。
家で考え込むより、外にいた方が気が紛れる。
目の前を通り過ぎる人の足音に『来る、来ない、来る、来ない…』と勝手にカウントする。
目を閉じながら足音だけに集中する。
コツコツ…来る、来ない、来る、来ない、来る…突然足音が止まる。
ゆっくり目を開けると女性の足がこちらを向いて止まっていた。
「怜君?」
ガバッと頭を勢いよく上げると、その足の持ち主は香帆だった。
「もう、来てたんだ…この間ギリギリだったから今日は早く来ようって思ってたのに、また待たせちゃったね、ごめんね」
時計を見るとまだ約束には30分以上あった。
白い息を吐きながら申し訳なさそうに笑う香帆にホッとした。
「来ないかと…思った」
「え?何で?約束したじゃない。私の方がすっぽかされるかと思ってたぐらいなのに」
「そんな事しないよ。俺、楽しみにしてたんだから」
「本当?良かった」
今日の香帆はオシャレをしていて、いつもの可愛らしい感じより、綺麗な大人だった。
2歳年上の香帆は、とても綺麗で、とても可愛くて、時に大人だ。
高校生と大学生。
未成年と成人。
たった2歳でもこのステージの差を大きく感じる時がある。
街中に施されたイルミネーションに香帆は随分はしゃいでいた。
まるで子供のような姿にふっと笑みが漏れる。
「香帆ちゃん…手ェ繋いでいい?」
「え?あ、良いよ。今日はお詫びなんだから、何でも言う事聞くよ」
ふふっと香帆は楽しそうに笑った。
お詫びをして欲しいなんて思ってたわけじゃない。
どんな気持ちで、どんな想いで怜が今日の日を迎えたのか香帆は全然分かっていない。
それは…香帆にとって怜は生徒でしかないと言われてるのと同じだ。
「怜君の手って、あったかいんだね…」
香帆は遠慮がちに怜の手を握る。
香帆の手はとても冷たかった。
なぜ、もっと早く握ってやらなかったのだろう…。
繋いだ手から何かを感じ取ろうとする。
LEDで装飾されたトンネルを香帆はキラキラと目を輝かせながらうっとりと眺める。
途中、何度もキレイ、凄い、を繰り返した。
そんな香帆を見つめていたらその視線に気付き、怜を見て微笑んだ。
このまま時間が止まれば…このまま見つめていられる。
怜の温もりで僅かに暖かくなった手に触れていたい、このままずっと…。
想いが溢れ出す。
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