君が夢から覚めるまで
怜の家に来るのは家庭教師のバイト以来だ。
怜の両親は香帆と付き合ってる事を知ってたみたいで、大歓迎で出迎えてくれた。
リビングのテーブルには料理が並べられていた。
今日はお客ではないのだ、手伝おうとしたら怜に「ちょっと」と、呼ばれて部屋に入る。
怜のこの部屋に入るのも久々だ。
本棚に並べられていた受験生の為の参考書はすっかり片付けられていた。
「なんかちょっと雰囲気変わったね」
「そうかな?まあ、要らない物捨てたし」
怜はベッドに腰掛け、その隣をポンポンと叩いた。
一瞬躊躇したが、言われるがままに隣に座った。
「大丈夫、襲ったりしないから。兄貴が来たら始まるからそんな時間ないし」
香帆の不安を見透かしたように怜は笑った。
「でもキスはさせて…」
怜の顔が近付いて来る。
そっと目を閉じると唇が重なる。
何度も角度を変えて触れるだけのキスを繰り返す。
一旦離れて目が合う。
「可愛い、香帆ちゃん…」
気付いた時はそのままベッドに押し倒されていた。
「んっ…」
キスが深くなるにつれて、背中がゾワッとするようなそんな感覚に襲われ、目が回る。
ーーーダメ…これ以上…。
コンコン…
扉がノックされ、現実へと引き戻された。
「怜〜、亮(りょう)が来たから始めるわよ〜」
母が呼びに来た。
「んー、今行く。…やべぇ…止まんなくなるとこだった…」
怜はイタズラにニヤッと笑うとチュッとキスをして香帆を起こしてくれた。
「…もう少ししてから降りてく?」
「?」
「そんな赤い顔してちゃ、何してたかすぐバレちゃうよ」
そう言われて香帆の顔は益々赤くなった。
窓を開けて顔を冷やす。
まだ…ドキドキ言ってる。
怜の唇や手の感触が…こんなふうに男性に触れられるのはいつ振りだろう…。
前の彼氏と別れて一年。
ーーーそっか…もう一年経ったんだ…。
怜に触れられて、元カレを思い出してしまった事に反省した。
すると赤かった顔も一気に冷めた。
「ごめん…」
思わず謝ってしまった。
「ん?なに?」
怜には聞こえなかったようだ。
怜について部屋を出て、リビングへ戻る。
「おう、久し振り!こちら、俺の彼女の香帆ちゃん。こっち、俺の兄貴の亮」
「初めまして、香帆ちゃん。弟がお世話になってます」
『兄貴』と呼ばれた男はニッコリ笑った。
香帆は…息が止まった。
「よ…吉井…香帆と、申します…」
香帆はぎこちなく頭を下げた。
目の前の絨毯を見ながら今の状況を必死に理解しようとした。
この亮と言う男は…香帆が一年前に別れた元カレだった。
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