君が夢から覚めるまで
結局断り切れなくて、亮の車にお世話になる事になった。
両親にお礼を言って、篠原家を後にした。
「アパート…変わってないよな?」
「うん…」
「そ、なら良かった」
まだ…怜も知らない香帆のアパートへ亮は車を走らせる。
「知ってたの?私の事…」
「怜の彼女って事?まあなんとなく。『K大の香帆ちゃん先生』…何度となくあいつから聞かされて、多分そうだろうな〜って」
「仲良いんだ…私たちの事黙っててくれてありがとう。弟さんがいるなんて知らなかったよ…。怜君にお兄さんがいるって事も最近知ったけど」
「知ってたらどうしてた?」
「少なくとも…今日お宅に伺う事はなかったでしょうね」
「怜と付き合う事は無かったって事?」
「そうね。もっと早く知ってればカテキョすらやらなかったと思う」
亮が溜息を吐いた。
「そんなに…俺の事嫌いだった?」
「そんな事一言も言ってないでしょ?それに…別れようって言ったのは亮君じゃない…」
「じゃあ…俺がまだ香帆の事が好きだって言ったらヨリ戻す?」
「そんな事出来るわけないじゃん。私今、怜君と付き合ってんだから。弟の彼女でしょ?」
「そっか、そうだったな…」
亮は意味ありげに笑った。
亮の車に乗るのも一年振りだ。
亮は香帆と別れてすぐカフェのバイトも辞めてしまった。
だから、顔を見る事もずっと無かった。
亮の事が決して嫌いだったわけじゃな。
好きだった…と思う。
ただ、彼と同じように想いを返せなかっただけだ。
先程の火傷にもすぐ気付いてくれたように、亮はいつでも香帆を見ていた。
ーーー新しい彼女、出来たのかな…。
香帆のアパートの前に車が止まる。
以前は、ここでおやすみのキスをして…。
けど、今は恋人ではないのだ。
一瞬、亮がこちらに身を寄せかけたようにも見えたが、香帆は気付かぬフリをしてシートベルトを外しドアを開けた。
「送ってくれてありがとう。それじゃ…おやすみ…」
「あ…うん、またな…」
亮は何か言おうとしたが、口を噤んでフッと優しく笑った。
走り去る車のテールランプを見送りながら、香帆は小さく手を振った。
ーーー『またな』って…また会うつもりなのかな…。
今日は酷く疲れた。
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