君が夢から覚めるまで
キャンプには20人ぐらい来ていて、そのうちの半分はサークルのメンバーだが、残りの半分はそのお連れさんだった。
あちこちで自己紹介が始まる。
「俺の彼女の香帆ちゃん、可愛いでしょ。K大なんだよ、頭いいでしょ」
怜が香帆の自慢をして回る。
香帆は恥ずかしくて堪らなかった。
「もう一人、香帆ちゃん紹介したい人がいるんだけどな…ほら、俺が良くしてもらってる先輩なんだけど…あ、いたいた、椎名先輩‼︎」
女性と二人で歩いていた男性を呼び止める。
怜の声に気付き男性が振り返る。
ドクン…
大きく心臓が跳ね、息が止まる…。
「香帆ちゃん、こっちこっち!こちら、俺が一番お世話になってる、椎名先輩。で、先輩の彼女の涼葉(すずは)ちゃん」
「…は、初めまして…」
怜に紹介されたその男は…香帆の東京行きを決定させた…高校時代の恋人、椎名和馬(しいなかずま)だった。
「で、こっちが、俺の彼女の香帆ちゃん」
「吉井です…」
香帆はぎこちなく頭を下げた。
それから怜と和馬は二言三言会話したが、香帆は頭に入って来なかった。
どうして…アメリカ留学していた筈の和馬が日本にいるのか…。
なぜ、東京にいるのか…。
いつ帰って来れるか分からないから別れようと言われたのに…。
「香帆ちゃん大丈夫?」
怜が心配そうに香帆の顔を覗き込む。
顔を上げると一瞬、和馬と目が合う。
「あ、ごめんね。人が多すぎてちょっと驚いただけ」
「あっちで休む?」
「ううん、平気」
香帆は無理に笑って見せた。
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