君が夢から覚めるまで
ガサガサ…
「え…?」
近くの草むらが揺れる音がする。
何かいる…。
香帆は足がすくんでしまった。
「猫かなんかだろ。大丈夫だ」
ガサガサ…
音が近付いてくる。
「ヤダヤダ!」
腰が引ける。
「香帆?」
「キャッ‼︎」
バサバサ…
目の前を何かが横切った。
香帆は和馬の腕にしがみついた。
「鳥だよ…」
香帆はへなへなと座り込んでしまった。
「どうした?大丈夫か?」
「こ、腰が…」
「お前、本当ビビリだな。しゃあねぇな…」
和馬は香帆の両脇にウデを潜り込ませ、抱き合うようにして立ち上がらせた。
「やっ!」
「イヤ、じゃねぇだろ。こんなとこ座り込んで。歩けるか?」
「ま、待って…」
脚が震えてしまい、和馬に支えられて立っているのがやっとだった。
「あ、やべ。次のチーム来た…。懐中電灯消すからな、静かにしとけよ」
「な、何で消すの?」
「は?こんなとこ見られたら困るだろ」
足腰の立たなくなった香帆を和馬が抱き留めたままだ。
確かに…誤解を生みかねない。
懐中電灯を消して、気付かれぬように木陰に隠れる。
和馬の腕に強く抱き締められる。
「和馬?」
「しっ!静かに‼︎」
次のチームがどんどん近付いてくる。
足音と声が大きくなるにつれて、香帆の鼓動も大きくなる。
和馬の胸に強く押し付けられる。
忘れようとしていた懐かしい大きな胸にドキドキが止まらない…。
このままでは和馬に聞こえてしまう…。
ーーーあれ…?
香帆とは別の…もっと速い鼓動が聞こえる。
もしかして和馬もドキドキしてる…?
いつの間にか次のチームは通り過ぎて行った。
けど、和馬は香帆を抱き締めたままだった。
「香帆…」
耳元で和馬が囁く。
その痛いぐらい切ない呟きに胸がどくんと鳴る。
「…かった…」
「え、なに?」
上手く聞き取れなかった。
「何でもない、行くぞ」
和馬は再び香帆の手を取り歩き出した。
漸く祠まで辿り着き、お札を手にする。
あとはゴールを目指すのみだ。
和馬はあれからずっと背を向けたままで、何も話そうとはしなかった。
聞きたいことは山程あった。
けど、今更聞いても、という気持ちもあった。
「あ、ゴール見えて来た…」
重かった気持ちがスッと楽になる。
「香帆ちゃ〜ん!」
怜が手を振るのが見えた。
香帆は自分がまだ和馬と手を繋いでいた事に気付き、慌てて振り払った。
「遅かったじゃん、心配したよ」
「ごめんね」
怜に謝りながら、視界の隅では和馬に涼葉が駆け寄るのが見えた。
ーーー私の彼氏は怜君…。
香帆は自分に言い聞かせた。
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