君が夢から覚めるまで
26.大和の勘
和馬が香帆のいるテントから出て来ると怜がすぐさま駆け寄ってきた。
「大丈夫、疲れだよ」
「先輩、すみませんでした」
怜はペコッと頭を下げて香帆のテントへ入って行った。
「あれ、怜は?」
同じサークルの大和(やまと)がキョロキョロしていた。
「今、彼女んとこ行った」
椅子に腰掛け、さりげなく香帆達がいるテントを眺める。
今頃、どんな会話してるのだろう…。
大和も和馬の横に座った。
「怜の彼女ってさ…結構イイね」
「は?」
大和を見る。
「痩せてんだけどさ、なんかエロいよね、あの身体」
思わずイラっとする。
「お前、どこ見てんだよ」
「全部だよ、男なら見るだろ、当然。あ〜なんか考えるだけで暫く楽しめそう」
ククッと大和はいやらしく笑った。
「やめろよ、そうゆうの」
「は?別にいいだろ、お前のオンナじゃないんだし」
ズキンと胸が痛んだ。
『お前のオンナじゃない』
…確かに…今は、怜の彼女だ。
今、香帆の隣に当たり前のように居られるのは怜だ。
分かっているけど、どうしようもない苛立ちが止まらない。
「和馬ってさ…怜の彼女と知り合い?」
「え?」
ドキッとする。
「キャンプで紹介されたのがはじめてだけど、何で?」
「いや、何となく。お前らの会話聞いてて、そう思っただけ。それに、キャンプの肝試しの時、俺とクジ交換したじゃん。相手、あの子だったろ?」
大和は結構勘が良い。
「人見知りが激しいって聞いてたからだよ。怜にはさ、大和がそう感じた事は黙っててくれよ。変な勘繰り入れられてもたまんねぇからさ」
「そうだよな、お前には涼葉ちゃんがいるしな」
「あ、ああ…」
涼葉の存在なんてすっかり忘れてた。
そもそも涼葉は…。
帰りの電車はみんな疲れてぐったりしていた。
向かいの席には香帆と怜が座っていた。
ウトウトしている香帆を怜はとても愛おしそうに眺めていた。
優しく頭を撫でながら時々髪をすくい唇を寄せていた。
今度、香帆に会えるのはいつだろう…。
できるだけ長く、香帆を見ていたい。
けど、今この光景は和馬にとってはあまりにも酷だった。
『お前のオンナじゃない』
そう大和に言われた事がずっと響いていた。
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