ローマの部屋 ~ 溺愛草食男子はゲイでした
ああー、それにしても今日の展覧会、行ってよかったなあ」
帰りに寄った居酒屋で、彼は繰り返した。彼の杯に酒を意図的にどんどん注ぎながら、私の頭は冴えていた。ちょっと早いかもしれないけど、今夜勝負に出たい。こんな私の悪巧みを、彼は気づいているのかどうかわからなかったが、二時間ほどとりとめのないお喋りをした後、店を出て駅までの暗い裏通りを歩き、私たちはいつの間にか路地裏の目立たないホテルに入り込んでいた。というか、私はそこにそんなホテルがあることを、あらかじめ知っていたのだけれど。

 中の部屋はビジネスホテルのように小ぢんまりとした、茶色とクリーム色でまとめたシンプルなインテリアだった。いかにもやりますよ、といったけばけばしさはない。
 初めてのデートでいきなりこんな所に来るなんて、彼はためらうかな? と思ったけれど、意外なほどすんなりとホテルの部屋の中まで入って来た。
ひょっとして彼は、ここが何をするところかわかっていないのかしら、とちょっと心配になってその顔を見た。
彼は、私を見つめていた。その顔はひどく真面目で、かつどこか哀れむような薄い微笑を浮かべていた。私は息を呑んだ。
 ・・・ やっぱり、この人は可愛いすぎる ・・・
心の中で再度うなづきながら、私は彼の肩に手をかけた。
彼もその頬を私の顔に寄せた。そのまま、私たちはベッドの上に倒れ込んだ。

 しっかりと抱き合ったまま、私たちはお互いの顔を唇で探りあった。
唇と唇が重なり合うのを感じたとき、私は何か夢を見ているのではないかと思った。あまりにも展開が急で、ここまで来るのがスムースだったので、自分でも驚いていた。彼みたいな男は、もっと焦らして手こずらせてくれるんじゃないかと覚悟をしていたのに。

抱き合って唇を求め合い、どれだけの時間が過ぎただろう。
私は彼にそっと告白した。
「初めて見たときから、気になっていたの」
くすりと笑った彼は、
「僕も・・・」
と言ってもう一度私の耳元に顔をうずめた。
 そうなの? 好意って本当に通じ合うものなんだ。私は心の奥底が熱くなってくるのを感じた。
こんな急展開、信じられないけど、夢を見ているんじゃないのね?
そう頭の中で繰り返しながら、私は彼のシャツのボタンを開けた。
彼は自分から服を脱いで上半身裸になり、それを見て私も身に着けていたものを脱いだ。
 それからまた二人はベッドの上でしっかりと抱き合い、そのまま下半身に身に着けていたものも脱ぎ捨てた。
彼の身体は細身ながら、引き締まっていてどこにも無駄な弛みがなかった。ウエストがあまりにも細いので、私は自分のぽよぽよした腹が恥ずかしくなってしまった。

私たちは至近距離で見つめあい、互いに照れくささのため笑った。
ああ・・・本当に夢じゃないのね?
しかし彼はやっぱり恥ずかしいのか、そこから先にはなかなか進めないようだった。私は彼の滑らかな背中を愛撫しながら、ここはやっぱり自分の方がからもっと積極的にいくべきかしらと悩んだ。こんなタイプの人って、そう言えば、今まで付き合ったことなかったから、どうするべきかと一瞬悩んだ。これまでなら、こんなシチュエーションになると、もう最後の最後までやってしまうのが当たり前だったんだけど。
「えっと・・・」
彼はどんなつもりでいるのか、やっぱり聞いてみなくてはと思い、私は身体を起こした。
彼は目を閉じて、白くピンと張ったシーツの上に横たわっていた。その身体に一糸も纏わず・・・。その姿を見たとき、私は腹の奥底が熱くなり震えた。

これが美というのかしら。女性のヌードが美しいとかよく聞くけど、男の裸だって美しいんだ ・・・。

例えこれから彼に二度と会えないようなことになろうとも、今夜の出来事を決して後悔することはないだろう。

そう思ったとき、私の覚悟は決まった。

「マー君、いいかしら? 私はあなたが本当に好きなの。あなたの全てが知りたいの。」

マー君は目を閉じたまま、小さくうなずいた。

それを合図に、私たちはもう一度重なり合った。
私が上になり、彼の肌に唇を這わせた。耳元から、首筋、肩 ・・・ 彼の息づかいが荒くなる。胸からはその鼓動が伝わってくる。
私は彼の腰に腕をまわし、その下半身に舌を這わせた。彼の身体は固くなり、私の頭をぐっと押さえた。

「ああ・・・」
 満足のあまり、つい声が漏れてしまう。

彼の肌は私より白く、毛色は薄かった。想像した通り、少年の裸像を絵に描いたような彼の身体だった。しかし、その中心が大きく固くなっているのを見止めた私は、心が躍った。
やっぱり、彼もOKなんだ。ここの形もすらりとしてきれいで、マー君によく似合っている。

 私は彼から何らかのアプローチがあることを期待した。
しかし彼は顔を右の二の腕で隠したまま、じっと横たわっている。

私は内心がっかりした。ここまで私のすることを許したなら、もっと自分からも何かしてくれればいいのに。彼から外見に似合わぬ積極性を見せてくれたらますます萌えるところだったのに。私は多少落胆を禁じえなかった。その気配を察したのか、彼は左手で自分の一物を撫でてこすり上げ、ますます大きく固く形作っていった。
「まあ・・・」
私が感嘆の声を上げると、彼は上半身を起こし、私を強く抱きしめた。


「真美さん ・・・」
私は目を閉じ、彼にされるがままになった。彼の固くなった一物は私の湿った部分をかなり迷いながらも探り当て、私はそれに答えるように腰を浮かして足を広げた。
「うっ」
彼は苦しそうな声を上げた。
私は彼の腰に腕を回してその動きを支え、内側からもしっかりと彼を受け止めた。二人は大きな波に揺られていた。なんと静かで平和な時間なのだろう。激しさや荒々しさなどどこにもない性交。こんなのは初めてだ。暖かくて、安心感があって ・・・

しばらくそうして揺られているうちに、二人はまどろみの中へ落ちていった。
はっと気づくと、時計は三時を回っていた。


「また会ってくれる?」
閑散とした駅で始発の列車を待ちながら、私はマー君に恐る恐るたずねた。
マー君は初めて会ったときと同じ、好奇心に溢れたような輝いた目で、
「うん」
と微笑んだ。
私たちはお互いの手を握り締めた。

(続く)
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