愛と夢と…
「あーサボっちゃったよ。最悪だあ。」
「もう済んだことだし良いじゃん。」
放課後の帰り道。
私の隣には吉沢くんがいる。
こんな状況になるなんて、1ヶ月前の私は夢にも思わなかっただろう。
音楽室での一件の後、
結局5時間目の授業に出ることは諦めた。
吉沢くんが一緒だから何とかなるという、どこからきたのか分からない自信と共に堂々と教室に戻った私は、案の定担任から呼び出しを食らった。
音楽の先生が報告していたらしい。
まあ、それもそうだよね。
しかし、私が授業をサボるなんて今までなかったため、怒られるというよりかは物凄く心配をされてしまった。
一方吉沢くんには大きな雷が落ちていたけど、彼は顔色ひとつ変えずにいた。
担任の言葉なんて、右から左に流れてしまっているような顔だった。
「良くないよ。今まで目立たず平凡に生きてきたのに。どうせ目立つならもっと良いことして目立ちたかった。吉沢くんと授業サボった結果、みんなの前に晒されるってどういう仕打ちよ。」
ぶつぶつと文句を言い続ける私。
そんな私に対し、吉沢くんは何を言うわけでもなく黙っていた。
横目で彼の様子をチラッとうかがう。
すると吉沢くんは、どこか一点を見つめたまま難しい顔をして何かを考えていた。
私たちはしばらく何も話さずただ歩いていた。
前にも後ろにも同じ高校の生徒がたくさん歩いていて、各々楽しそうに話している。
まるで私と吉沢くんだけ違う世界にいるのかと疑ってしまうくらいに私たちの間は静かだった。
「目立たず平凡に生きてきたと思ってるならそれは大間違いだよ。」
突然話し出した吉沢くんに驚き、隣に視線を移す。
「どういうこと?」
「ほら、周り見て。みんな笹本さんをチラチラ見てる。」
「は?」
目線を右へ左へと動かす。
周りにいるのは同じく下校中の高校生。
そしてその人たちの視線は_____
「違うよ。みんな吉沢くんを見てるんだよ。」
「…何で?」
「何でってそりゃあ…」
吉沢くんは自分の人気ぶりを知らないのかな。
私は理央から聞いて何となくその人気ぶりは知っているけど、この様子を見ると本人は知らなかったようだ。
たしかに、吉沢くんは周りに干渉されるのが嫌いと言っていたし、そういう人が他人からどう見られているのか気にするわけもないか。
ましてや女子の話なんて知るわけないだろう。
「あのね、余計な話かもしれないけどね、吉沢くんってとても綺麗でかっこいいと思うの。人のことなんてどうでもいい私でさえそう思うの。ということは他の女の子たちはもっとそう思うの。分かる?」
「言ってることは理解できるけど、その中身はあんま理解できないな。」
「んー、理解できないなら良いけど。とにかく周りの人たちは吉沢くんの美しさに目を奪われてるの。私じゃないよ。」
「んー……」
吉沢くんはぼんやり前を見つめたまま上の空な返事をした。
どうやらいまいち納得がいかないようだ。
「でも、俺思うけど笹本さんも綺麗だよ。」
「いいよ〜そういう冗談やめて〜」
『吉沢くんの名前分からない事件』の時もそうだけど、吉沢くんはたまーに相手に気を遣ったと思いきやその遣い方はあまりにも下手なのである。
「冗談じゃないんだけど。見た目も綺麗だけど何より中身が清々しくて良いと思うよ。」
吉沢くんはこういう風に、何故か突然褒め始める時がある。ある意味恐ろしい。
でも、恐ろしさと同じくらい恥ずかしさでいっぱいにもなる。
本気か冗談かも分からない言葉にいちいち反応してしまう自分にウンザリもする。
「……そりゃどーもね。」
自分でも聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟く。
耳が熱い。
隣の吉沢くんを見れない。
周りからの視線は相変わらず感じる。
そのなかを私たちは何も話さず歩いていった。