愛と夢と…
子猫ちゃん
長いようで短い1学期がとうとう終わった。
とはいえ、まだまだやらなければならないことがある私は吉沢くんと下校途中だ。
今日はこれから編曲をするため吉沢くんの家に行く。
家といってもこの前のアパートではなく“実家”だ。
「ねえ、なんでこの前あんなこと言ったの?」
「…あんなこと?」
「別荘のこと。」
私の問いかけに対し、吉沢くんは「ああ」とやっと合点があったように呟いた。
「言ったじゃん?使えるものは使うんだって。」
「そうだけど。吉沢くんがクラスのために動くとは思わなかったから。」
「クラスのためって意識はなかったけど…まあ、そういうときもあるよね。」
「ふーん…でも、そもそも別荘あるなんてびっくり。」
「金だけは無駄にあるんだよ、うち。」
お金があるのになぜ吉沢くんは1人でアパートに暮らしているのだろう。
お金に厳しくなるときもあると言っていたけど、お金持ちの家に生まれたのにそういう状況に陥るって何があるのだろう。
吉沢くんの話を聞けば聞くほど疑問が浮かんでくる。
そのまま歩き続けて私たちは駅に着いた。
平日の昼間だから普通はあまり人が多くないはずなのに、今日はどの学校も終業式のため駅は混んでいる。
「どの電車に乗るの?」
「新京線。ここから1時間ぐらい乗るよ。」
「結構遠いんだね。」
そして、私たちは無言でホームに並んだ。
私たちはきっと、お互いがクラスの中でいちばんかそれに通ずるほどの親しい人物であるといえるはずだ。
席も隣だし、顔を合わせればまあまあ話す。
でも、だからといって仲が良いというものとは少し違うと思う。
友達同士がするような他愛のない会話はほとんどしないし、今みたいに平気で無言になることもしばしばある。
本当によく分からない関係だと思う。
でも、少なくとも私はなぜか彼に心惹かれている。
ホームに電車が入るアナウンスが流れる。
降りてきた乗客と入れ違いに電車に乗った。
電車は混んでいたため、私と吉沢くんは4人がけボックス席に隣り合って座った。
目の前に座っている他校の女の子2人が、吉沢くんのことを繰り返しチラリと見ている。
女の子たちのその気持ちはとっても分かる。
だって、かっこ良いもん。美しいもん。
そりゃあ、そんな綺麗な人が目の前にいたら見てしまう。
しかし、当の本人は窓の外をボーッと見つめている。
女の子たちの視線にはおそらく気付いていない。
私たちは電車のなかでも特に何も話さなかった。
電車に乗って1時間ほど経ったころ、
『つぎは桜ヶ丘、桜ヶ丘。』
ある駅を知らせるアナウンスが響く。
すると、ずっとボーッとしていた吉沢くんがもそもそと動きだした。
「つぎで降りるから。」
「桜ヶ丘?」
「そう。」
「……わあ…」
桜ヶ丘とはこのあたり有数の高級住宅地だ。
お金持ちだとは言ってたけど、まさかこんな高級な場所に家があるなんて。
「…“おぼっちゃま”なの?」
「さあ?どうだか。」
私の言葉に対し吉沢くんは意味有りげな含み笑いを見せた。
電車を降りて改札を出る。
そして、やたら立派な駅をでると。
「うわー…すご…」
駅前ロータリーに色を添えている華やかな多くの花。
外国情緒溢れるオシャレなカフェやレストラン。
歩いている人々も、男女問わず皆洗練された人ばかりだ。
少なくとも、どこにでもあるような公立高校の制服を着て歩く街ではない。
見慣れない街をキョロキョロ見渡しながら、私は吉沢くんについて歩いた。
「ここには帰ってきてるの?」
「ほとんど帰ってないかな。高校入学と同時に一人暮らし始めたんだけど、それ以来一度も。」
「聞いて良いのか分からないけど…ご両親は?」
「あの人たちは今住んでないよ。たまに帰ってきて掃除してるらしいけど。」
色んな家庭の在り方があるんだな、と漠然と思った。
私の家だって特異だと思うし。
しばらく歩き続け住宅街に入った。
さすがに駅前のような華やかさはなくなったけれど、上品で落ち着いた素敵な家が並んでいる。
「てか、さっきから愛菜くるくる表情変わりすぎ。笑い堪えるの必死なんだけど。」
「え、うそ。無意識…」
「驚いてんだなーって伝わってきた。愛菜ってたまにすっごい顔にでるときあるよね。いつもは“無”って感じなのに。」
「そうなの…?自分じゃ全然気づかなかった…」
珍しく私たちの間に和やかな会話が生まれた。
あの建物は何だ、あのオブジェが可愛い、など
他愛のない話をしながら住宅街を進んだ。
とはいえ、まだまだやらなければならないことがある私は吉沢くんと下校途中だ。
今日はこれから編曲をするため吉沢くんの家に行く。
家といってもこの前のアパートではなく“実家”だ。
「ねえ、なんでこの前あんなこと言ったの?」
「…あんなこと?」
「別荘のこと。」
私の問いかけに対し、吉沢くんは「ああ」とやっと合点があったように呟いた。
「言ったじゃん?使えるものは使うんだって。」
「そうだけど。吉沢くんがクラスのために動くとは思わなかったから。」
「クラスのためって意識はなかったけど…まあ、そういうときもあるよね。」
「ふーん…でも、そもそも別荘あるなんてびっくり。」
「金だけは無駄にあるんだよ、うち。」
お金があるのになぜ吉沢くんは1人でアパートに暮らしているのだろう。
お金に厳しくなるときもあると言っていたけど、お金持ちの家に生まれたのにそういう状況に陥るって何があるのだろう。
吉沢くんの話を聞けば聞くほど疑問が浮かんでくる。
そのまま歩き続けて私たちは駅に着いた。
平日の昼間だから普通はあまり人が多くないはずなのに、今日はどの学校も終業式のため駅は混んでいる。
「どの電車に乗るの?」
「新京線。ここから1時間ぐらい乗るよ。」
「結構遠いんだね。」
そして、私たちは無言でホームに並んだ。
私たちはきっと、お互いがクラスの中でいちばんかそれに通ずるほどの親しい人物であるといえるはずだ。
席も隣だし、顔を合わせればまあまあ話す。
でも、だからといって仲が良いというものとは少し違うと思う。
友達同士がするような他愛のない会話はほとんどしないし、今みたいに平気で無言になることもしばしばある。
本当によく分からない関係だと思う。
でも、少なくとも私はなぜか彼に心惹かれている。
ホームに電車が入るアナウンスが流れる。
降りてきた乗客と入れ違いに電車に乗った。
電車は混んでいたため、私と吉沢くんは4人がけボックス席に隣り合って座った。
目の前に座っている他校の女の子2人が、吉沢くんのことを繰り返しチラリと見ている。
女の子たちのその気持ちはとっても分かる。
だって、かっこ良いもん。美しいもん。
そりゃあ、そんな綺麗な人が目の前にいたら見てしまう。
しかし、当の本人は窓の外をボーッと見つめている。
女の子たちの視線にはおそらく気付いていない。
私たちは電車のなかでも特に何も話さなかった。
電車に乗って1時間ほど経ったころ、
『つぎは桜ヶ丘、桜ヶ丘。』
ある駅を知らせるアナウンスが響く。
すると、ずっとボーッとしていた吉沢くんがもそもそと動きだした。
「つぎで降りるから。」
「桜ヶ丘?」
「そう。」
「……わあ…」
桜ヶ丘とはこのあたり有数の高級住宅地だ。
お金持ちだとは言ってたけど、まさかこんな高級な場所に家があるなんて。
「…“おぼっちゃま”なの?」
「さあ?どうだか。」
私の言葉に対し吉沢くんは意味有りげな含み笑いを見せた。
電車を降りて改札を出る。
そして、やたら立派な駅をでると。
「うわー…すご…」
駅前ロータリーに色を添えている華やかな多くの花。
外国情緒溢れるオシャレなカフェやレストラン。
歩いている人々も、男女問わず皆洗練された人ばかりだ。
少なくとも、どこにでもあるような公立高校の制服を着て歩く街ではない。
見慣れない街をキョロキョロ見渡しながら、私は吉沢くんについて歩いた。
「ここには帰ってきてるの?」
「ほとんど帰ってないかな。高校入学と同時に一人暮らし始めたんだけど、それ以来一度も。」
「聞いて良いのか分からないけど…ご両親は?」
「あの人たちは今住んでないよ。たまに帰ってきて掃除してるらしいけど。」
色んな家庭の在り方があるんだな、と漠然と思った。
私の家だって特異だと思うし。
しばらく歩き続け住宅街に入った。
さすがに駅前のような華やかさはなくなったけれど、上品で落ち着いた素敵な家が並んでいる。
「てか、さっきから愛菜くるくる表情変わりすぎ。笑い堪えるの必死なんだけど。」
「え、うそ。無意識…」
「驚いてんだなーって伝わってきた。愛菜ってたまにすっごい顔にでるときあるよね。いつもは“無”って感じなのに。」
「そうなの…?自分じゃ全然気づかなかった…」
珍しく私たちの間に和やかな会話が生まれた。
あの建物は何だ、あのオブジェが可愛い、など
他愛のない話をしながら住宅街を進んだ。