愛と夢と…
あの後私たちはお互い何かを話すこともなく保健室を出た。
吉沢くんは私の後ろで呑気に鼻歌を歌っている。
それがやけに上手くて腹がたつ。
教室に戻ると、心配そうな驚いたような何とも言えない表情をした担任が、
「いや、頼んだのは俺だけどさ。今まで何してたの?」
…ごもっともな指摘。
何してたのって言われても…
まさか、「キスされてました」なんて言えないし。
「いやぁ、えーっと…「「俺のわがまま。」
私の言葉を吉沢くんが遮った。
「わがまま?」
「はい。眠いしダルかったから教室戻りたくない、でも1人は嫌だって言って笹本さんを引き止めてお喋りしてた。」
「そうなのか、笹本?」
「……はい。保健の先生もいなかったからどうしようもなくて。」
吉沢くんの気の利いた(?)嘘に私も乗っかり、無事その場を取り繕うことはできた。
そして、朝の保健室騒動から時間が経ち、今は6限目。
今日、私の隣は珍しくずっと埋まっていた。
吉沢くんがいるから外をぼんやり見つめることはできない。
桜が舞っている様子と机に突っ伏している吉沢くんの姿を何となく横目にしながら授業を受ける。
私は、無意識に保健室でのことを思い出していた。
吉沢くんが何を思ってあんな行動に出たのか、本当に分からない。
キスってそんな簡単にするものなの?
好きな人にするんじゃないの?
とはいえ、私と吉沢くんは今日初めて話したぐらいだし、好きだとかそういう感情は絶対あり得ない。
てか、あんな綺麗な人(顔だけね)が私なんかを好きになることは地球がひっくり返ってもあり得ない。
でも、だからこそ分からなさすぎる。
もしかしたら、本当に「何となく」なのかもしれない。
それか、吉沢くんは実は帰国子女で、あのくらいのキスは日常茶飯事で、ついそれを純日本人に試してみたくなったとか??
それかそれか、キスが趣味とか?
…自分の考えが何だか馬鹿馬鹿しく感じる。
でも、あんなに不思議な雰囲気をだしてる人だから、どんな事を考えてたとしても正直驚かない自信はある。
ただ、1つだけ。
私、ファーストキスだったのに……
それだけは本当に悔やまれるし腹立たしい。
隣の吉沢くんは小さな寝息をたてている。
今すぐ鼻をつまんでやりたい気にもなるけど、
グッと堪えて改めて授業に意識を向けた。