スカシユリ
放課後――。
部活勧誘期間中は毎日行われている劇を観るために、
私は視聴覚室を訪れていた。
用意されている席の後方に座り、始まるのを静かに待つ。
開始時刻が近づくにつれて段々と席が埋まっていき、あっという間にほぼ満席状態となった。
シナリオは20分ほどで終わってしまう短いものだったが、私はすっかり魅了されていた。
劇が終わると見学に来ていた生徒たちが口々に感想を言い合いながら視聴覚室を出ていく中、
私はカバンの中から紙を取り出し、その場で自分の名前を記入した。
私の様子に目ざとく気づいた2人の生徒が私のもとに近づいてきた。
?「へぇ、君、入部してくれるんだ」
?「よかったよかった、これで部員1人は確定だね~」
『え、っと、さっきの……」
声をかけてきたのは先ほどまで劇に出演していた人たちだった。
誉「『楠見 誉(くすみ ほまれ)』。一応、演劇部の部長。で、こっちが」
望「副部長の『花坂 望(はなさか のぞみ)』だよ」
『秋風蛍です。よろしくお願いします』
誉「こちらこそ」
『あの、演劇の経験とか、全くないんですけど入部してもいいんでしょうか』
望「もちろん、うちらも未経験だったしね」
誉「あぁ。ただ、入部するにあたって1つ聞いてもいいかな」
『はい』
誉「演劇部に入部しようと思うぐらいだから、演劇に興味は持ってくれているんだろうけど、実際に自分が演じるとなると話が違う。体力も必要だし、表立って目立つ子たちばかりじゃない。演劇は裏方がいるからこそ成り立つ。それをきちんと分かってる?」
望「ちょっと、誉!」
誉「よくいるんだよね、入部してすぐに役を貰えると思ってる子が。それに目立ちたい、なんて理由で入部した子はすぐに辞めていく。正直それが一番迷惑だし」
望「はぁ……、いきなりごめんね。でもまぁ、みんなが思ってるよりも大変なのは事実かな。体力作りや発声練習が嫌で辞めちゃう子が毎年多いの。だから、入部する前に確認してるんだけど……」
『いえ、むしろ当然だと思いますよ。入部しておいてやっぱり辞めます、なんていう人の方が失礼だと思いますし』
そこまで言って、私が演劇部に入部したい1番の理由はなんだろう、と自分自身に問いかける。
そして、言葉を選びながら、自分の気持ちを伝えるために口を開いた。
『役者からキャラクターになる、っていうんでしょうか。役者1人1人がキャラクターのことを理解していて、まるで本当に存在しているような感覚にさせてくれる演劇が大好きなんです。
舞台がキャストだけで成り立っているものじゃないことは分かってますし、入部しようと思った理由も、目立ちたいからではないです。ただ、……なんのとりえもないこんな私でも、演技を通じて、変われるかもしれないって思ったから』
ゆっくりとではあったものの、自分の気持ちを伝え終えた。
ずっと黙って聞いていた2人だったが、先に口を開いたのは部長だった。
誉「ふーん、そう」
それだけ言うと、私の横を通り過ぎ、視聴覚室から出て行ってしまった。
(いや、なんだその反応は)
望「合格だって」
『え、あれって合格ってことなんですか』
望「うん、しかも結構嬉しそうだった」
『……分かりづらい』
望「はは、確かに。でも、悪い奴じゃないから。さっきは嫌な思いさせたでしょ?ごめんね」
『いえ、部長や副部長の言うとおりだと思いますし、私も同感ですから』
望「そう言ってくれると助かるよ。あと、私のことは望でいいから。改めてよろしくね、蛍」
『こちらこそよろしくお願いします、望先輩』
こうして、正式に演劇部への入部が決まった。
部活勧誘期間中は毎日行われている劇を観るために、
私は視聴覚室を訪れていた。
用意されている席の後方に座り、始まるのを静かに待つ。
開始時刻が近づくにつれて段々と席が埋まっていき、あっという間にほぼ満席状態となった。
シナリオは20分ほどで終わってしまう短いものだったが、私はすっかり魅了されていた。
劇が終わると見学に来ていた生徒たちが口々に感想を言い合いながら視聴覚室を出ていく中、
私はカバンの中から紙を取り出し、その場で自分の名前を記入した。
私の様子に目ざとく気づいた2人の生徒が私のもとに近づいてきた。
?「へぇ、君、入部してくれるんだ」
?「よかったよかった、これで部員1人は確定だね~」
『え、っと、さっきの……」
声をかけてきたのは先ほどまで劇に出演していた人たちだった。
誉「『楠見 誉(くすみ ほまれ)』。一応、演劇部の部長。で、こっちが」
望「副部長の『花坂 望(はなさか のぞみ)』だよ」
『秋風蛍です。よろしくお願いします』
誉「こちらこそ」
『あの、演劇の経験とか、全くないんですけど入部してもいいんでしょうか』
望「もちろん、うちらも未経験だったしね」
誉「あぁ。ただ、入部するにあたって1つ聞いてもいいかな」
『はい』
誉「演劇部に入部しようと思うぐらいだから、演劇に興味は持ってくれているんだろうけど、実際に自分が演じるとなると話が違う。体力も必要だし、表立って目立つ子たちばかりじゃない。演劇は裏方がいるからこそ成り立つ。それをきちんと分かってる?」
望「ちょっと、誉!」
誉「よくいるんだよね、入部してすぐに役を貰えると思ってる子が。それに目立ちたい、なんて理由で入部した子はすぐに辞めていく。正直それが一番迷惑だし」
望「はぁ……、いきなりごめんね。でもまぁ、みんなが思ってるよりも大変なのは事実かな。体力作りや発声練習が嫌で辞めちゃう子が毎年多いの。だから、入部する前に確認してるんだけど……」
『いえ、むしろ当然だと思いますよ。入部しておいてやっぱり辞めます、なんていう人の方が失礼だと思いますし』
そこまで言って、私が演劇部に入部したい1番の理由はなんだろう、と自分自身に問いかける。
そして、言葉を選びながら、自分の気持ちを伝えるために口を開いた。
『役者からキャラクターになる、っていうんでしょうか。役者1人1人がキャラクターのことを理解していて、まるで本当に存在しているような感覚にさせてくれる演劇が大好きなんです。
舞台がキャストだけで成り立っているものじゃないことは分かってますし、入部しようと思った理由も、目立ちたいからではないです。ただ、……なんのとりえもないこんな私でも、演技を通じて、変われるかもしれないって思ったから』
ゆっくりとではあったものの、自分の気持ちを伝え終えた。
ずっと黙って聞いていた2人だったが、先に口を開いたのは部長だった。
誉「ふーん、そう」
それだけ言うと、私の横を通り過ぎ、視聴覚室から出て行ってしまった。
(いや、なんだその反応は)
望「合格だって」
『え、あれって合格ってことなんですか』
望「うん、しかも結構嬉しそうだった」
『……分かりづらい』
望「はは、確かに。でも、悪い奴じゃないから。さっきは嫌な思いさせたでしょ?ごめんね」
『いえ、部長や副部長の言うとおりだと思いますし、私も同感ですから』
望「そう言ってくれると助かるよ。あと、私のことは望でいいから。改めてよろしくね、蛍」
『こちらこそよろしくお願いします、望先輩』
こうして、正式に演劇部への入部が決まった。