スカシユリ
振り返ると、そこにはこちらを見つめる1人の生徒が立っていたが、目が合った瞬間に逸らされてしまった。

(何だったんだろう……)

一瞬ではあったものの、その生徒の顔には見覚えがあった。
同じクラスで、自分から率先して騒ぐタイプではないが、中心グループのメンバー。
自分とは反対のタイプの人なんだろうな、という印象を持ったのを覚えている。

朝「蛍? どうかした?」

急に振り返った私を不思議に思った朝日がそう声をかけてくれる。

『ううん、なんでもない。ごめん、続けよっか』

そう返事をして、私たちは発声練習を再開した。
しかし、それからというもの、このようなことが何回も続いた。

(……何なの、すごく気になるんだけど)

いつもと同じように練習を行っていた私は、その日も視線を感じ、振り返るとやはりこちらを見つめる姿があった。
サッと目をそらし、練習に戻ろうとする姿に――。

『相良』

気づくと、私はそう呼び止めていた。
すると、相良は驚いたようにこちらを振り返ったが、私自身が一番びっくりしていた。

(いや、なんで呼び止めたよ私……)

特に用事もないのに呼び止めてしまい、どうしようかと思ったが、最初に口を開いたのは相良だった。

圭「秋風、何部?」
『演劇部。……意外、私の名前知ってたんだ』
圭「同じクラスだろ、知ってるっつの」
『ほとんど話したことないし、認識されてないと思ってた』
圭「それを言うなら、俺の名前だって知ってただろ」

常に中心グループにいる人と私とでは話が違うような気がするが、あえて口にする必要はないだろう。
そしてちょうどいい機会だと、ずっと気になっていたことを尋ねた。

『声、うるさい?』
圭「は?」
『いや、いつもこっち見てるから、声がうるさいのかと思って』
圭「別にうるさくない。よく通る声だなと思ってただけ」

「よく通る声」、それは声を使う職業の人にとって一番大切なこと。
そして練習を行っている私にとって、それは最高の誉め言葉だった。

『本当? そう言ってもらえるのが一番嬉しい』
圭「……そう。じゃあ、俺練習に戻るから」
『あ、邪魔してごめん。練習頑張って』
圭「あぁ。アンタも」

そう言って相良は練習に戻っていった。
その背中を見送った私も練習を再開した。

誉「あれ、何かいいことあった?」

練習を終えて部室に行くと、楠見先輩は私を見るなりそう言ってきた。

望「え、そうなの?」
誉「何となくだけどね」
『いえ、特に……』

そう返事をしたものの、心当たりがあるとすれば相良の言葉だった。
とはいえ、そんな素振りを見せたつもりはなかったが、無意識に表情に出ていたのだろうか。

(というか、何で分かるんだこの人……)

誉「ふーん、じゃあ俺の気のせいだったのかな」

楠見先輩はそう言ったが、全部見透かされているような気がして、何となく居心地が悪い。
私はそれをごまかすように楠見先輩から視線を逸らし、他の部員のもとへと向かった。

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