スカシユリ
一度呼び止めてしまった日から、休憩中に相良と話すことが多くなった。
ただ、お互いに教室で話すことはなく、話すのは部活の休憩中だけだった。

ある日、いつも1人でこちらを眺めている相良の隣に、今日はもう1人別の生徒の姿があった。
同じクラスで、ムードメーカー的存在の成瀬だ。

『……1人増えてる』
司「ごめんごめん、いつも圭ちゃんが休憩になったらここに来てるからさ~。何してんのか気になってたんだよね」
圭「悪い、邪魔して」
『別に大丈夫』
司「えー、でも知らなかったな、圭ちゃんとほたるんが仲良かったなんて」
『ほたるん?』
圭「また勝手にあだ名を……」
司「えー、いいじゃん! 可愛いし、親睦深めるためにもさ!」
『別に何でもいいよ』
司「ほら、ほたるんもいいって言ってるじゃん」

勢いに負けてそう答えただけだったが、本人はかなり喜んでいるようで、思わず笑みがこぼれる。
すると、2人は驚いた様子でこちらを見つめていた。

『なに?』
司「いや、ほたるんってあんまり笑わないイメージがあったから……」
『人を何だと思ってるの』
圭「浅井といる時以外はほとんど笑わないだろ」

改めて言われるとそうかもしれなかった。
実際は、笑わないのではなく、ほとんど話さないから笑う機会がないだけだが。

『まぁ、昔から冷たそうって言われる』
司「? そうかな、俺は思わないけど」
『え?』
司「笑わない=冷たいってわけじゃないし?」
圭「話さなかったら知らないのも当然だしな」

2人の言葉に、今度は私が驚く番だった。

『……ありがとう』
司「これからはどんどん話しかけていくから!」
『いや、それはちょっと……』
司「え、そこ遠慮するとこじゃなくない?!」

そんな風に3人で話していると、突然2人の視線が私の背後へと移った。

?「蛍、何さぼってるの?」

私はその声にパッと振り向いた。

『楠見先輩、サボってないです』
誉「うん、知ってる。ちょっとからかっただけ」

楠見先輩は悪びれもなくそう言いながら近づいてくる。

『どうかしたんですか?』
誉「ん? いや、蛍の綺麗な声を聞きに来ただけ」
『は……?』

恐らく、私はすごく怪訝な表情をしていたと思う。
だって、楠見先輩に褒められたことすらないのに、私の声を『綺麗な声』と言うなんて誰が想像できただろうか。

誉「何、俺が褒めるのがそんなに意外?」
『はい』
誉「相変わらず正直だね。でもまぁさっき言ったのは本当。蛍のよく澄んだ通る声、俺は好きだよ」
『……!』

そう言って頭を撫でてくる楠見先輩の顔は冗談を言っているようには見えない。
いつもは飄々としているが、実力は部の中でもトップの楠見先輩からそう言ってもらえるのは誰に言われるよりも嬉しかった。
何となく気恥ずかしくて、思わず視線を逸らしてしまった私は、楠見先輩がどんな表情で2人を見つめていたのか知らなかった。



< 6 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop