スカシユリ
圭吾side――

休憩になると、誰にも声をかけずに秋風たちの練習を眺めることに理由はなかった。
声を掛ける必要がない、と思っていただけ。
だが、今日は俺の隣には別のやつが立っていた。

司「ふーん、いつも秋風さんたちのこと見てたんだ」

そう言いながらこちらをニヤニヤと見つめてくる司の脇腹を軽く殴る。

圭「変な言い方すんな」
司「はは、ごめんって。でも圭ちゃんと秋風さんが仲良しだったとは知らなかったな~。教室でも全然話さないじゃん?」
圭「別に話す理由がない」

口ではそう言ったものの、『話す理由がない』のではなく『話しかけられない』という方が正しかった。
浅井と笑って話す秋風の顔から、俺が話しかけることで笑顔を消してしまうような気がして。

司「あ、こっちに気づいたみたい」

その言葉通り、秋風は俺たちに気づいたようで、こちらに向かってきていた。
やはり、というべきか、司がいることに驚いているようだったが嫌がってはいないことにひとまず安心する。
先ほどまで『秋風』だった呼称はいつの間にか『ほたるん』へと変化しており、司のコミュニケーション能力の高さにはいつも驚かされる。
しかし、それよりも驚いたのは秋風が笑ったことだった。
これには隣の司も驚いていたようで、2人して同じ反応になってしまった。
冷たい、というようなイメージを抱いていたわけではなかったが、俺たちと話して笑ってくれるとは思っていなかったのだ。
それと同時に、「もっと笑った顔が見たい」とも思っている自分がいて、少し戸惑う。
そんな風に3人で話していると、1人の生徒がこちらに歩いてきていた。

?「蛍、何さぼってるの?」

俺たちから秋風の視線を奪ったその人物の名は、楠見、というようだった。
その人物が『蛍のよく澄んだ通る声、俺は好きだよ』、そういった瞬間、秋風がかなり動揺したのが分かった。
そして、秋風の頭を撫でながらこちらを見つめる楠見さんの瞳は、
『手を出すな』と言っているように感じて、思わず足がすくむ。

誉「ほら、後輩君たちも、いつまでも喋ってないで練習に戻らないとダメだよ~」
司「りょーかいっす。圭ちゃん行こうぜ」
圭「……あぁ」

まるで自分のものだ、というようなまなざしが、なぜか気に入らなかった。





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