お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
突然舞い込んだお見合い


暦は九月を迎えたばかり。
街の幹線道路に面した弁当屋『わたせキッチン』のドアをお客が開けるたびに、夏の名残の生暖かい空気が店内に入り込む。

昼時を迎え、一台だけあるレジカウンターの前には客が列を作っていた。


「いらっしゃいませー!」


鈴の音色のような千花(ちか)の声が響き渡る。クーラーの風量を最大にしているが、その額には汗が滲んでいた。


「生姜焼き弁当でお待ちのお客様、大変お待たせいたしました」


千花が店内に声を掛けると、二十代後半の男性が「はいはい」と手をあげる。すらっと背が高く優しそうな客は、この頃よく来店する男性である。


「いつもありがとうございます」


弁当の入った袋を笑顔で手渡す千花を前にして、その客は突然胸もとから名刺を取り出した。穏やかな笑顔でそれを千花にそっと渡す。

(……久城総合病院? お医者様なのかな。でもどうして名刺なんて?)

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