お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました

(間違えてるって……なにが?)

男はなにを言うわけでもなく、ただ黙ってチラシを指差す。
そこを焦って目で追うが、千花にはなにがどう間違えているのかピンとこない。

(どこが間違えているんだろう)

恥ずかしさと焦りからドキドキと速く刻む鼓動。
千花がおろおろしていると、男は「棒が一本足りないな」と口走る。ヒントにしては漠然とし過ぎていた。

(棒が一本? ……あっ!)

数秒後、ようやく理解した千花が心の中で短く叫ぶ。〝きのこ三昧〟が〝きのこ三味〟になっていたのだ。まさに棒が一本足りない。


「すみません!」


あたふたとしつつ頭を深く下げる。

(私ったら恥ずかしい!!)

頬がカーッと熱をもち、今すぐこの場から逃げ出したい気分だった。


「別に俺に謝ることはないだろ」


パッと顔を上げて男を見ると、眼差しにどことなく嫌な笑みが浮かんでいるように見えた。簡単な漢字を間違えた千花を馬鹿にしているのかもしれない。

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