お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました

(……たしかに情けない間違いだけど、そんなふうに笑わなくてもいいのに)

とにかく、お客にそんな間違いを指摘されたことが恥ずかしくてたまらない。
パソコンで〝ざんまい〟と打てば、きちんと〝三昧〟と変換されただろう。こだわって手書きにしたことが仇になってしまった。

男に手渡したチラシを千花が丸めて捨てようとすると、男はそれを阻んだ。


「これはもらっておく」
「ですが……!」


誤字だとわかっていて、そのまま自分の手もとから離れていくのは心許ない。チラシの配布は今日から。すでに五十枚近くはお客に渡ってしまい、それはどうにもならないが。

ところが男は、そのチラシを折りたたんでポケットに入れてしまった。


「べつに笑いのネタにするつもりはないから心配するな」


男の唇の端が若干上がる。表情と言葉が合っていないように見えるのは、千花の思い過ごしか。いいネタを仕入れたとほくそ笑んでいるように見えた。

約五分後、出来上がった弁当を袋に入れて男に手渡す。

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