お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました

「……ありがとうございました」


なんとなくばつが悪い思いを抱えながら、後ろ姿を見送っていた千花がハッとする。カウンターから出てその背中を追いかけた。


「よかったらどうぞ。まだ雨が降っていますから」


傘立てに入れておいた千花の真っ赤な置き傘を差し出す。誤字を教えてくれたことへのお礼のつもりもあった。外はまだ雨。それも、さっきよりも強くなっていた。


「タオルは洗濯して返すよ」
「わざわざそんな。大丈夫ですから」


返してもらおうと千花が手を出したが、男はまるでその言葉が聞こえていないかのように「傘もありがたく借りていくぞ」と外へ出る。開いた傘に雨がザーッと弾けた。

(なんだかちょっと変な人)

広いストライドで足早に歩いていく男を数秒間見送り、店の中へ入る。そして千花は気を取り直して、引き出しから取り出したボールペンでチラシの〝味〟に一本ずつ棒を付け足していった。

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