お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
「んっ……!」
突然のことに驚いて声を漏らすと、修矢は軽く千花の唇を吸い上げてから離れた。
「な、なんですか……」
「なにってキスだけど」
「こんなところで……!」
一番うしろのシートとはいえ、ボートには人がたくさん乗っている。しかも、修矢が最後に立てたリップ音で、前列の人がチラッと視線を投げかけたのだ。
千花が小声で抗議すると、修矢は「したくなったからした。それだけだ」と素知らぬふり。
「千花は俺のフィアンセ。悪いことをしているわけじゃないだろ」
修矢が〝俺の〟という部分を強調したように聞こえたのは千花の気のせいか。
その言い方のせいで、千花の心臓は遅ればせながら速く打ち始めた。反応が悪いにもほどがある。
ボートが出口に到着し、ギシギシという音を立てる。
「ほら、降りるぞ」
「あ、はい……」
修矢は、突然のキスに動揺している千花の手を引き、ボートから降りた。
(なんだか、私ひとりがどぎまぎさせられている気がするんだけど……)
それからもふたりはアトラクションに乗りつつゆったりと園内を歩き、レストランで夕食をとり、閉園間際までたっぷりと楽しんだのだった。