お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
医局にほかに誰もいないのをいいことに、神崎はとことん食い下がった。こうなる予想がついたから、誰にも報告せずにいたのだ。修矢は、もともと自分の話をするのも苦手な方だ。
「しかも、お相手はわたせキッチンの千花ちゃんだって言うじゃないですか」
「〝千花ちゃん〟?」
妙な呼び方をされ、修矢の眉間に深く皺が寄る。自分でも驚くほど声のトーンが下がった。
院内に彼女のことを知っている人が多くいることはわかっている。だが、実際に神崎に千花をちゃん付けで呼ばれ、修矢は不愉快だった。
「あ、すみません。ってか、いつの間に付き合っていたんですか?」
「神崎には関係ないことだ」
ちゃん付けの恨みを晴らすわけではないが、修矢が鋭く切り捨てる。
「関係ありますって。だって、千花ちゃん――あ、いえ、彼女は俺の癒しだったんですから」
神崎によると、千花目当てでわたせキッチンにはちょくちょく通っていたと言う。昼だけでなく夜にも弁当を買い、千花に『いつもありがとうございます』と常連認定をされてウキウキしていたそうだ。