お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました

信じていたものすべてが崩れ落ちた瞬間だった。

その夜から何日にもわたって寝込んだ千花は、結局そのまま退職という道を選んだ。

毎日のようにふたりと会社で顔を合わせることを考えるだけで、呼吸すらうまくできなくなっていた。彼氏と親友、ふたりをいっぺんに失うどころか、千花は仕事まで手放したのだ。

これはあとで知ったことだが、ふたりの関係は三ヶ月にも及んでいたらしい。つまり恋人として付き合っていた半分の間、裏切られていたことになる。千花はまったく気づきもせず、疑うこともなかった。

なんて愚かだったのだろうと、自分のことも責め続けてきた。自分の鈍さにも腹立たしかった。

子供の頃から、通知表には『ぼんやりしていることが多いので気をつけましょう』と書かれることがよくあったが、まさにそれ。彼氏が浮気していることに何ヶ月も気づかないくらいなのだから、正真正銘のぼんやりさんだ。

その彼女は千花よりもずっと大人っぽくて、誰もが認める美人。あとになって考えれば、彼氏の選択にも頷けた。

そうして両親が営む、このわたせキッチンで働き始めてから二年が経つ。

もう彼氏なんていらない。結婚もしない。弁当屋で働きながらひとりで強く逞しく生きていこう。千花はそう決意して生きてきたのだ。

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