お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
修矢が鋭い目を瞬かせる。院内で千花がそんなに人気を集めているとは知らなかったのだ。
「その彼女を久城さんがゲットしたと知ったら、みんなショックだろうなぁ。……とはいえ、久城さんには容姿も医師としての腕も敵わないやつばっかですけど。なんせ久城さんは、名だたる久城総合病院の次期院長ですからね」
むず痒くなることを神崎が言うのはいつものことだが、千花に好意を寄せている人間がほかにもいたと聞き、修矢は複雑な気持ちだった。
どこか近寄りがたく、相手との距離をとる修矢に対し、気軽に接してくるのは神崎くらいのもの。そんな修矢が千花の人気ぶりを知る術はなかったのだ。
「でも久城さん、彼女に対してまでそんな素っ気ない態度をしたらダメですからね?」
「……余計なお世話だ」
修矢が憮然と返す。が、神崎の言うことが耳に痛いのも確か。なにしろ修矢には身に覚えがあるのだ。
「女性にはあくまでも優しく。時代は溺愛ですよ、溺愛」
わかったような口を叩く神崎の頭を、修矢はデスクに置いていたファイルで小突いた。
「イテッ」
頭を庇う神崎にそのファイルを押しつけ、修矢が立ち上がる。その話題は強制終了だ。
「ほら回診の時間だ」
「へーい」
ぴょんと飛び上がるようにして立ち上がった神崎を従え、修矢は医局を後にした。