お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
「まだしてないから」
「そうなの?」
「顔を真っ赤にさせるから、てっきりそうなのかと思ったわ」
東子はソファの背もたれに身体を預けて、長い足をゆったりと組み替えた。
千花たちは最後の一線をまだ越えていない。
修矢から打ち明け話をされた夜は、そのままの流れであわや……となりかけたが、修矢が病院から呼び出されたのだ。キスの途中、修矢のスマホに電話が入ってしまった。
ガッカリしたのとホッとしたのと、千花の気持ちは半分半分だった。見合い結婚という、どちらかといえば古風な方法で結ばれるのなら、結婚初夜がふたりの初めての夜の方がいい。
「ともかく、千花が幸せなら私はそれでいいわ」
「東子……」
「一生私のそばにいるって言われたときはどうしようかと思ったしね」
「そうだよね」
千花がクスッと鼻を鳴らす。そのときのことを思い出しても笑えるようになったのだから、大きな進歩だ。
「幸せになりなさい」
「……うん、ありがとう、東子」
傾きかけた日差しに目を細めながら、千花は東子と微笑み合った。