お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
千花が小首を傾げて不思議そうにしていると、
「俺、そこの医師なんです。具合の悪いときにはいつでも来てくださいね」
後ろを指差して、客は愛嬌のある笑顔を浮かべた。久城総合病院は、わたせキッチンの真向かいにある要塞のような大病院。やはり、そこに勤める医師らしい。
「お気遣いありがとうございます。そのときにはそうさせていただきますね」
にっこりと笑った千花の大きな目は三日月のように細くなり、やわらかな頬にえくぼが浮かんだ。
(私、よっぽど具合悪そうに見えるのかな)
このところ久城総合病院の医師だという客から、名刺を手渡されることが度々あった。眼科や消化器内科、整形外科なんていうのも。このお客は小児外科に勤めているらしい。
千花は視力が悪いわけでも、胃腸が悪いわけでも、それからどこかに怪我を負っているわけでもない。
(だけど小児科じゃ、私は診てもらえないんじゃないかな。それとも、両親の仕事を手伝っている中学生の娘にでも見えたとか……?)