お見合い婚 俺様外科医に嫁ぐことになりました
「千花は昨日の疲れもあるだろうから、マンションでゆっくりしていたらどう?」
美幸はそう言いながら厨房へ戻っていった。
実は千花がここへ来たのは、思いがけず暇を持て余してしまったから、店の手伝いでもしようかと思ったのだ。けれど今日のわたせキッチンは、千花の手を必要としていない。
これからの千花は修矢の妻として体調管理など忙しくなるだろうからと、アルバイトをひとり雇い入れたのである。
「千花さん、こんにちは」
接客の合間を縫って、そのアルバイト・真奈美(まなみ)がふっくらした顔に笑みを浮かべる。千花が「こんにちは」と返すと、さらに「ご結婚おめでとうございます」と祝ってくれた。
三十七歳の真奈美はこの近所に住む主婦で、ふたりの男の子の母親である。
結婚して十年、働かずに子育てに専念してきたが、下の息子が小学生になりそろそろ働こうと思っていた矢先、わたせキッチンの求人を知ったという。
全体的に丸みを帯びたふくよかな女性で、人当たりもいい。弁当屋にもってこいというか、とても安心感のある人だ。
「結婚式の翌日じゃない。店のことは気にしないで、千花はマンションへ帰っておいしい手料理でも作って待っていたら?」
「……そうだね」
手が足りているのなら、店にいても仕方がない。
千花は美幸の言うことに素直に頷き、店をあとにした。